インジケーターに対する考え方とは?水上氏のおすすめするものは?
相場の分析する際に使うインジケーター(テクニカル指標)にはさまざまなものがあります。
有名なものだけでも、移動平均線やボリンジャーバンド、オシレーター系でいえばMACDやRSI、ストキャスティクスなどなど…。マイナーなインジケーターも含めたら数えきれないほど。

「どれを使えばいいのかわからない」というのは、初心者トレーダーなら誰もが直面する問題といっていいでしょう。そこで今回は、「インジケーターに対する考え方」をテーマに解説していただきました。
なぜインジケーターのサインどおりに取引しても勝てないのか?
編集部:世の中には膨大な数のインジケーターがあります。ほとんどの人がそれらを使っているとは思うのですが、「教科書通りに使っているのに勝てない」というのは、ほとんどすべての初心者に共通する悩みだと思います。
まずはこの理由について教えてください。これはなぜなのでしょうか?

水上:例えばMACDとかボリンジャーバンドとか、数値はどれも同じものを使っているということは、多くの人が同じものを見ているわけですよね。
そうなると、例えば売りのサインが出たとなると、みんなが売るわけですから。それは売り過ぎになってしまってうまくいかないっていうのはごく当たり前のことなんですよね。

あとローソク足チャートには「ヘッドアンドショルダー」「ダブルトップ(ダブルボトム)」などの有名なパターンがいろいろありますよね。
これなんかはもう完全にみんなが見ていて、「こういう格好になると落ちるだろう」といった具合に、みんなが同じ期待をしてポジションを持ってしまうことがあるわけです。

典型的なヘッドアンドショルダーのチャートパターン。ネックラインを割ったところで売りエントリーというのがセオリーだが…?
そうなるとマーケットのショートポジションが大きくなってしまって、実際の相場が逆に行ってしまうというのはよくあります。そしてショートポジションがロスカットされて軽くなると素直にセオリー通りの方向に行っちゃうということもよくあることなんですよね。
つまり「結局みんなが同じものを見てるんだ」っていう認識をしないと、いつになってもどれを使っても当たらないんですよ。
編集部:インジケーターで売買のサインが出ているのにセオリーどおりにいかないことを、俗に「ダマシ」などと言いますが、これもサインが出たからいきなりみんながポジションを持って偏ってしまうことが原因なのでしょうか。

水上:それがけっこう大きいと思います。
例えば、これはドル円の日足チャートなのですが…。

これはダブルトップというチャート形状で、真ん中の下がったところにネックラインを水平に引けます(黄色い線)。そのラインを一度下に抜けちゃっているので、そのセオリー通りにいけばこの相場はものすごく落ちることになるんですよね。
ただ、チャートを見るとそれほど落ちずに上昇しています(赤い円の部分)。これがなぜかというと、みんなが「この相場は落ちる」と思って売りすぎているからです。
編集部:赤い円の部分だけでも約16日間、約4円も上昇しているんですよね…。「ネックラインを抜けたから下がる」と思ってショートでエントリーした人はロスカットになっている人が多いでしょうね。

水上:だからチャートを見るときに大事なのは「そのときのポジション状況がどうなってるか」を読むことです。チャート形状が出来上がってるから自動的に落ちるという問題ではないんですよ。
マーケットのセンチメントがものすごい弱気になってショートに傾いているとしたら、こういったネックラインを割っていても落ちません。

編集部:そういえばこの連載の第1回目「相場はなぜ動くのか」の回でも、「ロングに傾くとむしろ上がらなくなり、ショートに傾くとむしろ下がらなくなる」ということについて解説していただいていましたね。
インジケーターについて考えるときにも、その大原則に基づく必要がありますね。

「ダマシ」を割けるためには、ある程度「自分流」の見方が必要
編集部:「ポジションの偏りを考えること」が非常に重要だというのはわかるのですが、とはいえトレーダーはつい「勝率の高いインジケーターってないの?」と考えてしまう習性があります。
そんな都合のいいものはないというのを承知で聞きますが、どんなインジケーターなら勝率が高いと思いますか?

水上:しいて言えば単純なもの、シンプルなものの方がいいのではないかと思います。ローソク足とか移動平均線とかですね。
たださっきお見せしたように、ダブルトップなどの有名なパターンができてみんなが注目してしまうようなことがあると、逆に落ちなくなっちゃうというのはあるんですけれども。
インジケーターはある程度、自分でカスタマイズしないとうまくいかない部分があります。自分のオリジナルなものを持つことが大事だと思います。
編集部:うーむ、それは初心者にとってけっこうハードルの高い話ですね。

水上:であれば、例えば私自身が開発してきたものを見ていただければ、まだそんなにみんなの関心の的にはなってないので、 当たる可能性が高いのではと思います。
相場が動き始める兆しを知るものとしては「複数の移動平均線の収束」とか、あるいは「ボリンジャーファイブ」とか、あるいは「ホライゾン」です。
これらはまだ世の中ではそれほど周知されてないので、結構当たる確率が高いと思っています。もしもこれが周知されてポジションが偏るようなことになれば外れてきてしまうと思いますけどね。
編集部:水上さんオリジナルの分析法が広まれば広まるほど当たらなくなる可能性がある…というのは複雑な心境ですが、ともかく今は知りたいです。ぜひ解説をお願いいたします。

相場が動き出す兆候を示す3つのサイン
編集部:まずは「複数の移動平均線の収束」ですが、これは文字通り「移動平均線がギュッと集まってくると相場が動き出す可能性が高い」ということですよね。

複数の移動平均線の収束

編集部:いろいろな移動平均線が同じ場所に集まってくると、何だか「パワーがそこに溜まってきている」ようなイメージがあってわかりやすいかもしれませんね。
ちなみに移動平均線の設定はどのようにすればいいのでしょうか?

水上:どれがいいという決まりはないんですけども、私が今使ってるものをあえて申し上げれば「5・10・25・90・120・200」というのを使っています。
でも、結局その人の好みなので、例えば7日や15日を使っても全然問題ないんですよ。大事なことは最低でも3ヶ月は同じものを見ること。自分が見慣れる必要があるということが大事なところですね。
編集部:インジケーターすべてにいえることですね。では次に「ボリンジャーファイブ」ですが、これは名称から察するに、ボリンジャーバンドをオリジナル化したものですよね?

ボリンジャーファイブ

水上:通常のボリンジャーバンドは期間を20や21にするのに対して、期間を「5」に、偏差を「2」に設定したものです。この設定にしているときに「上下のバンドが狭く、平行になる」ことがあるのですが、そうなると相場がどちらかに大きく動くことが多いです。
編集部:なるほど。移動平均線もギュッと集まってくると動きだすタイミングが近いということでしたが、ボリンジャーファイブも「バンド幅が狭まる」という部分では似ていますね。

水上:ただ実は、ローソク足を見ているとバンドの収束よりももっと重要なことが起きていることがわかるんです。それが「ホライゾン」です。
バンドが収束したところを見ると、短いローソク足が並んでいますよね?
編集部:確かに、実体部分が短いローソク足が並んでいますね。

水上:このローソク足が短いものを「短線」と呼んでいるんですが、相場が動き出す前にはこの短線が横に水平に並ぶ習性があるんですよ。 この水平に並ぶ状態を、私は「ホライゾン」と呼んでいます。
ホライゾン

水上:先ほどのボリンジャーファイブはバンド幅が収束することで「もうすぐ動き出す兆候がありますよ」というのを教えてくれるのですが、ボリンジャーファイブを表示させなくても、短線が並んでいるのを見れば「もう動き出そうとしている」というのはわかるんですね。
編集部:「相場が動き出す兆候」を伝えてくれるものが3種類もあるんですね。これはぜひ注視するようにしたいです。

水上:ただ、ホライゾンにしても移動平均線の収束にしてもボリンジャーファイブにしても、決定的な欠点があるんです。
それは「どっちに動くかはわからない」ということ。
編集部:なるほど。「そろそろ動きだすかもしれない」と教えてはくれるけれど、「どっちに動くのか」までは教えてくれないんですね。

水上:ではどうすればいいかっていうと、結局「動いた方向についていけばいい」んです。いわゆる順張りでいけばいいということなんですよ。
動き出す前にポジションを持って賭けるのではなくて、「動き出したらついてけばいい」だけの話なんですね。だからエントリーの仕方としては非常に簡単というか。多少遅れても焦らなくていいわけですよ。
編集部:なるほど、シンプルですね。この連載の第3回では「逆張り思考からの脱却」をテーマに解説していただきましたが、この記事も合わせて復習しておきたいですね。
【第3回】「逆張り思考」からの脱却|水上紀行氏に聞く!為替相場を生き抜くための基礎知識
それにしても、何もインジケーターを表示させない「ローソク足だけ」の状態でも重要な情報になるというのは驚きです。

水上:ローソク足だけ見てるだけでもものすごい発見があるんですよ。 多くの人は相場というのは無機質なものだという見方をしていると思うんですね。
ただやっぱり無機質ではないし、市場に参加している人間それぞれの思惑があって。そのぶつかり合いによって相場ができてるんです。それを絵にしたものがローソク足チャートで、「今はどの勢力が攻めていて、どの勢力が今やられてるのか」などが見えてきます。
多くの人は「どのインジケーターがいいんだろう」と探して、いろんなものを表示させて売買のサインを探したりしていると思うんですけど、何にも表示させないローソク足を見ることも大事なのですね…。
この話はそれだけでも一回分のテーマになると思いますので、ぜひ次回にお聞きしたいと思います。今回もありがとうございました!

今回のまとめ
- インジケーターを見て多くの人が同じポジションを持つと、セオリー通りには動かない
- ある程度はカスタマイズも必要
- 素のローソク足チャートを見るだけでも非常に参考になる
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。