経済指標を生き残るための基礎知識
FXを続けていくと、必ず向き合うことになるのが「経済指標」というイベントです。

重要な経済指標の発表時には相場が大きく動くことがあるため、トレーダーへの影響も甚大。ではトレーダーはこのイベントに対して、どう臨めばいいのでしょうか。
今回は「経済指標」の生き残り方について、水上氏に伺いました。
そもそも経済指標は「相場を張る」ときではない!トレード手法は普通の相場で研究しよう
編集部:今回のテーマは経済指標です。たとえばアメリカの雇用統計などの重要な指標は発表された瞬間に相場が大きく動くので、そこに賭けるトレーダーもけっこういると思うのですが、そもそもこういったトレードはアリなのでしょうか?

水上:個人投資家は、経済指標に向けて「相場を張るもの」という誤解がものすごく多いですね。しかし経済指標に賭けるというのは、言ってみれば丁半博打です。
50対50の確率しかないところで取引するというのは非常にリスクが高すぎるので、プロはこれをやらないというのが基本なんですね。

編集部:やはりそうなんですね。プロですらトレードを避ける場面なのに、我々素人が手を出して勝てるはずがありませんね。

水上:もし経済指標に関してポジションを持つとすれば、発表が出て方向性がはっきりしてから乗るというのが基本ですが…。もっと根本から言えば「相場の青い鳥」がどこにいるかというと、それは普通の相場にあって、経済指標のときじゃないんです。
つまり、経済指標については誤解が多すぎるんですね。
編集部:実際、2025年2月の米雇用統計のときのチャートを見てみても、発表後には上下にものすごく振れました。
こうなるとどっちのポジションを持っていてもストップロスに触れてしまう気がしますね。


↑2025年2月7日のドル円チャート。中央部の上下に長くヒゲが伸びているところが22:30の雇用統計発表の瞬間
水上:指標発表の直前に、FX会社が提供している注文情報などを見ていると、多くのトレーダーが売りも買いもストップロスが入りっぱなしの状態で指標を迎えているんですよね。
そうするとどうなるかというと、このチャートのように下も上も全部ストップロスがついてしまうんですよ。しかもこれだけ急激な値動きをすると、どこで約定するのかわからない状態だと思うんですよね。
注文を入れた値段で約定すると思ってポジションを持ったりオーダーを入れてたりしているのだと思いますが、このような値動きのときはほとんどあり得ない話で、とんでもないところで約定されても仕方がありません。
編集部:「経済指標に張る」ことの怖さが、このチャートを見てもよくわかりますね…

指標発表直後の乱高下は、すべて投機要因|重要度も時代とともに変わる
編集部:一口に経済指標といっても、ものすごい数があります。これらの数字を見るうえで大事なことは何でしょうか?

水上:確かに、経済指標にはいろいろありますよね。失業率・非農業部門雇用者数・小売売上高・生産者物価指数・CPI・消費者物価指数・新規失業保険件数・GDP・政策金利・ISM製造業景気指数・JOLTS・ADP…など、いくらでもあります。
ここで一番大事なことは、発表直後の値動きは「どれも投機要因」だということです。
要するに投機筋が、経済指標の発表に対して連想ゲームで「これは買い・これは売り」というのをやってるわけです。

例えば、非農業部門の雇用者数が強ければドル買いとか、小売売上高が下がればドル売りとか、いろんなことを言って連想ゲームをやっているに過ぎません。
仮に指標の数字が悪かったとして、本当に実態の経済が落ち込むのかというのはまた別問題です。
ましてや、経済指標が出た瞬間に急に世の中が変わるのかというと、変わるものではないですよね。
編集部:確かにそうですね。発表直後に世の中がガラッと変わるわけはないですね。

水上:それを変わると思って取引しているのは投機筋であり、連想ゲームで売ったり買ったりをしているだけなんです。
しかし投機筋には宿命があります。売った以上は必ず損益確定のために買い戻さなければならないし、買えば必ず損益確定のために売らなけれないけない。ということは経済指標の発表後に何が起きるかというと、基本的には「往って来い」になることが多いんです。
往って来い(いってこい)とは?
相場が一方向に動いた後、結局は元の水準まで戻ってきてしまうこと
編集部:そう考えると、指標発表後の狂乱というのはなんだかむなしいですね。

水上:指標の結果を見ていくというのは本来「時系列的に追いかける」とかいう話なんですね。例えばCPIの動きを追っていくにしても「CPIが沈静化してから物価が落ち着くので金利が下がるので…」と時系列的に追っていくという話です。
そういったファンダメンタルの分析はもっと時間のかかる問題であって、発表された瞬間に世の中が急に変わるという問題ではない。
ですから、経済指標で勝った負けたといって大騒ぎしてみても、はっきり言ってあまり意味がないというか。最初にも言ったように丁半博打に近い状態なので、それがトレードだと考えない方がいいというのが正直なところですね。
あと、指標の「重要度」に関しては、注目する人が多ければそれだけ重要度は高くなるわけですけども、あるときに突然注目度が急激に伸びてくるやつもあるわけです。例えば「JOLTS(ジョルツ)」というアメリカの求人数とかですね。

かつては見向きもされなかった指標なのですが、こういうものが突然出てくることもあります。CPIとかPPIといったものも、かつてはほとんど見られたこともなかったのですが、突然前面に出てくるようになりました。
一昔前は、アメリカの指標の中で一番注目されてたのはアメリカの貿易収支だったんですよ。 こんなのは今は見向きもされてないですよね。昔はそれでディーリングルームが大騒ぎして発表になるともうお祭り騒ぎになっていましたが、もう今はそんなことが全くなくなってますからね。
相場の世界でいうと「ファッション」と言うのですが、まさに流行ですよね。
編集部:そう考えると、やはり経済指標は水物(みずもの)のようなところがありますね。投機要因で行って来いの乱高下をするし、指標の注目度も流行によって変化する…。
これは確かに「経済指標で相場を張る」などと考えない方がいいですね。

スイングトレードの場合はどうする?短期トレードの場合は?
編集部:一つ疑問があります。スイングトレードなど、長期でポジションを持つ場合はどうしたらいいのでしょうか。
経済指標があるたびに決済していたら、長期でポジションを持つことなどできなくなってしまうと思いますが…。

水上:非常にいい質問ですね。当然ながら指標発表後は相場が振幅しますから、長期でポジションを持っているときは、ある意味で鈍感になるしかないんですよね。
編集部:やはり、そうなりますよね。仮に相場が大きくアゲインスト(不利な方向)へ動いたとしても、それも前提としてポジションを持つ覚悟というか…。

水上:スイングトレードというのは、ものすごいストレスが溜まります。例えば上昇トレンドにたまたまラッキーにも乗れたとしても、当然その中に上げ下げがあるわけで、この上げ下げに耐えながらやるというのはすごいしんどいですよね。
含み益の出ているロングのポジションを持っているときに下げてくる局面で、「どこまで下がるのか」というのは誰も保証はしてくれないわけですから。
私もインターバンクでやっていたときに2ヶ月ぐらいの長期でポジションを持ったことがあるんですが、シンガポール勢などがガンガン売ってくるのに耐えながらキープするってのはものすごいしんどかったですね。
2ヶ月間ポジションを持って閉じたときはもう本当にヘトヘトでした。うまくいって大儲けした喜びよりも、疲れの方が多かったというのが実際のところですね。
編集部:なるほど。トレードスタイルは人それぞれの好みですが、スイングトレードにはそういった側面もあることを知っておくべきですね。
ちなみにデイトレードなどの短期トレードの場合、指標発表後にエントリーするとしたらどういったタイミングがいいのでしょうか。

水上:やはり「方向性がはっきりしてから」というのはあるんですけども、最近の傾向としては、海外投機筋が指標の結果に関係なく相場を動かそうとする場合も多いので、下手に相場感を持たない方がいいんじゃないかということです。
下手に相場感を持って、それに固執して捕まってしまったら逃げ遅れるのはもう目に見えてるわけですからね。
それだったらもう最初からもう相場感を持たず、下がるんだったら素直に売ればいいし上がるんだったら買えばいいという方向性で見てるのが一番いいんじゃないかなと。
そして繰り返しになりますが、やはり「相場の青い鳥」は普通の市場にあるんだということ。それに尽きるのではないかという感じはしますけどね。

編集部:指標発表後は相場がガンガン動くのでつい目の色が変わってしまいますが、そこで儲けてやろうなどと考えない方がいいということがよくわかりました。
もっと地に足のついたトレードスキルの向上を目指していきたいと思います…!

今回のまとめ
- 経済指標は相場を張る場面ではない
- 指標発表直後の値動きはすべて投機要因
- 長期トレードの場合はある意味鈍感になるしかない
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。