FXの「通貨ペア」とは?基礎知識から解説
FX会社ではさまざまな通貨ペアを取り扱っており、どの通貨ペアで取引するかはトレーダーの自由です。
日本人にとってもっとも定番なのは米ドル/円(ドル円)ですが、それ以外にもユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円、ユーロ/ドル、ポンド/ドル…などなど、選択肢はいろいろ。

会社によっては50ペア以上もの取り扱いがあるので、どのペアで取引すればいいのか迷っている初心者も多いのではないでしょうか。そこで今回は水上氏に、「通貨ペア」に関する話をお聞きしました。
まずはちょっとややこしい「クロス円」の特徴を知ろう
編集部:FX会社ではさまざまな通貨ペアを取引することができますが、初心者が実際にトレードする通貨ペアを選ぶうえで押さえておくべき基礎知識は何でしょうか?

水上:まず「クロス円」についてお話をします。クロス円というのはもともと合成通貨であって、市場があるわけではないことを知っておきましょう。
クロス円とは
ユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円など「米ドル以外の通貨と日本円」のペアのこと。
米ドルは基軸通貨なので、米ドルとのペアについては「ドルストレート」という。つまり米ドル/円はクロス円ではなくドルストレートのペアの一つ
編集部:えっ?「クロス円には市場がない」とおっしゃいましたが、FX会社ではさまざまなクロス円の通貨ペアが取引できますし、活発な値動きがあります。これはどういうことなのでしょうか?


水上:表向きにはクロス円も活発に取引されているように見えますが、実際にはそれぞれの通貨をバラしているんですね。
例えばユーロ/円であれば、「ユーロ/ドル」と「ドル/円」にバラさないと市場でカバー取引ができないんです。それを掛け合わせた合成通貨ペアがユーロ円です。
ユーロ/円のレートの作り方(例)
- ドル/円:148.750
- ユーロ/ドル:1.08800
→148.750×1.08800=161.84(ユーロ/円のレート)
ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円など、クロス円のほとんどがそういった「掛け算通貨」です。
「掛け算通貨」の主なクロス円
ユーロ/円・ポンド/円・豪ドル/円・NZドル/円・南アフリカランド/円・トルコリラ/円・メキシコペソ/円…など

ただ一部には「割り算通貨」というのもあって、代表的なものがカナダドル/円やスイスフラン/円ですね。例えばカナダドル/円のペアは、「米ドル/円」を「米ドル/カナダドル」で割って作ります。
「割り算通貨」の主なクロス円
カナダドル/円・スイスフラン/円

編集部:少々ややこしい話になってきましたが、これらの違いは何かあるのでしょうか?

水上:掛け算と割り算では、「掛け算の方が相場の振幅が激しい」というのはあります。つまり相場の変動が大きい。
ただスイスフラン/円などは2022年から2024年の間に55円もの円安・スイスフラン高になっています。割り算通貨もファンダメンタルズの事情で動くときには動くのですが、基本的には掛け算通貨の方が変動が激しい傾向があります。
クロス円にはボラティリティの高さなど特有のリスクがあり難易度が高い
編集部:掛け算通貨の方が値動きが激しいということは、それだけ稼げる幅も大きいということになるのでしょうか?

水上:確かにそうとも言えますが、合成通貨というのは非常にリスクが高いんです。なぜかというと、先ほども言ったとおり市場がほとんどないからです。
主要通貨であれば流動性がありますが、例えばニュージーランドなどは市場規模として大したことはありません。「NZドル/円」という通貨ペアはあたかも市場があるかのようなプライシングがされていますが、実際に市場はないんですね。


ですからバラした取引が行われるのですが、クロス円のペアは場合によってむちゃくちゃな状況になることがあります。
一番ひどかったのは2008年のリーマンショックのときですね。このときにアメリカの証券会社はものすごい損失を出したのですが、この損失の穴埋めをするために利益の出ている商品をむちゃくちゃに売りました。
それが何かと言うと、当時「円キャリートレード」と言われていた「高金利通貨買い・低金利通貨売り」となるクロス円のポジションです。
このとき、例えばNZドル/円は合成通貨なので、NZドル/米ドルとドル/円を別々に売ることになりますよね。ドル/円は流動性があるので問題ないのですが、NZドル/米ドルなんてほとんど流動性がないんですよ。
そうなると「ドル/円だけはカバーできたけどNZドル/米ドルは全然カバーできない」ということになり、NZドルだけ買値がないままにマーケットの中でどんどん急落してしまうことになります。
このときはNZドル/円だけでなく、豪ドル/円もポンド/円もむちゃくちゃに落ちました。

↑2008年のNZドル/円週足チャート。中央部分の暴落がリーマンショック時の動き
編集部:それは怖いですね…

水上:あとクロス円に関連して申し上げておきたいのは、新興国通貨の怖さです。なぜ新興国通貨が怖いのかというと、流動性が極めて低いからですね。
編集部:流動性が低いということは、すでに解説していただいたような急変動のリスクがあるということですね。

水上:それに加えて新興国通貨の場合は、その国の中央銀行が強権を発動する場合も考えられます。例えば、通貨危機になりそうなときに市場を閉鎖してしまうといったことですね。
編集部:新興国通貨はスワップポイント狙いの運用で日本人にも人気ですが、やるのならそういったリスクを承知のうえでやる、リスクを避けたいなら手を出さない方が懸命かもしれませんね。


↑トルコリラ/円の月足チャート。ところどころで大きな暴落を繰り返しながら長期的な下落トレンドが止まらない状態になっている
初心者も含め、日本人におすすめな通貨ペアはドル円
編集部:では初心者はどの通貨ペアを選べばいいのでしょうか?

水上:やはり米ドル/円なのかなという気がします。ドル/円がなぜいいのかというと、我々が日本人だからです。
現在、ドル/円を活発に取引している海外投機筋はシンガポール、ロンドン、ニューヨークですが、シンガポールとロンドンは、ドルについても円についても自国通貨ではないため「自前の情報」がないんです。
ですから彼らは基本的に、ドル/円を強引に落とすことしか考えていません。
それに対してニューヨークはドルについて自前の情報を持っていますから、それなりの情報に基づいて取引をやっているというのがわかります。そして円については、やっぱり日本勢が一番情報を持っています。
日本に住んでいれば肌感覚でわかるような経済情報が、実は外国人はわからないんですよね。 この「肌感覚でわかる」っていうのはすごく大きなアドバンテージなんですよ。ですからやはり、一番事情がわかってるという意味で私はドル/円を一番おすすめしますね。
編集部:そういえば水上さんには連載第1回のときに「日本のデジタル赤字」について教えていただきましたね。ネットフリックスやAmazonやディズニーなどのサブスク、あるいはGoogleやAmazonのサーバーレンタルなどに支払っているお金は、最終的に円売りドル買いの動きになるという。
確かに、こういったものは相当多くの日本人が契約しているだろうし「総額はとんでもない規模だろうな」というのが肌感覚でわかりますね。日本人として、こういうアドバンテージを利用しない手はないですね。


水上:そうですね。
編集部:水上さんは以前からドル/円ばかりなのですか?

水上:実は私もかつてはいろんな通貨ペアをやっていたんですよ。ユーロ/ドルなんて当たり前だし、ポンド/ドルもやったし、ある時はスペインペセタなんていうのも手を出したりしていました。
一応それらで儲けはしたんですが、本当にラッキーなだけで。その国の事情なんてほとんどわかっていないんですよ。情報を得ようとしても、向こうの人だったら誰でも知ってるぐらいの情報しか入ってこない。例えるなら、革ジャンパーを着て背中を孫の手で搔いているような、そんなもどかしさがあるんです。
それに比べるとドル/円というのはもう、肌感覚でわかります。それはものすごいアドバンテージだと思いますよ。
編集部:初心者は通貨ペア自体、あまり手広くやらない方がいいのでしょうか。

水上:企業などもそうですが、儲かっているときに他のものに手を出して、手を出したために本体の屋台骨を崩してしまうことがありますよね。
それと同じで、初心者はあまり手を広げない方がいいと思いますし、あえてやるのであれば本体並みの力を入れないと儲からないですよ。しかし「同じだけの力を入れる」と言ったってそんなに情報があるわけではないし、そこがすごく難しいところだと思いますね。
編集部:となるとやはり「日本人なら自前の情報があるドル/円にアドバンテージがあるよ」ということですね。

水上:そうですね。例えば海外投機筋は「日米金利差の縮小」ということを言い分にして仕掛けてきていますが、2024年の場合、金利差は1.25%以上縮小したのにドル/円相場は年間で16円もドル高円安になりました。

↑2023年から現在までのドル/円週足チャート。長期的に見れば円安トレンドは継続中
あとは相変わらず「リスク回避の円買い」などと言い続けているところを見ても、本当にわかってないんだなと思います。
現在の日本はもう地政学的にもいいポジションにいません。ロシア・北朝鮮・中国に対峙しており、何かがあったらミサイルが飛んでくるという位置にあります。さらにGDPについても中国、ドイツよりも下がって今は4位であるとか、財政赤字が1200兆円あるとか、少子高齢化とか…いろんな問題を抱えています。

今や日本はリスク回避通貨とは言えないことを海外投機筋はわかっていないし、わかってやっているにしてもそれ自体に無理があるということです。
日本人にとって、ドル/円以外の通貨ペアは全部アウェイです。逆に言えば、海外投機筋といえども日本に対してはアウェイで、実際のところドル/円では全然うまくいってないんですね。そのため、いらだって強引な手に出てきているというのもあります。
せっかく日本人はドル/円に優位性があるのだから、それを大事にしないともったいないですよとは思いますね。
編集部:自分自身のトレードスキルが身についてないから利益が出せないのに「他の通貨ペアなら勝てるのかな」などとあれこれ手を出してしまうのが、初心者にありがちな失敗だと思います。
トレードで利益を出せるようになるのはそう簡単なものではないですし、近道を探そうとするのではなく、まずはドル/円でじっくりとトレードスキルを磨いた方がいいのでしょうね。
今回もありがとうございました!

今回のまとめ
- クロス円は「掛け算通貨」の方が値動きが激しい
- クロス円はリスクが高い
- 日本人にとってドル/円は自前の情報のある通貨ペアなのでおすすめ
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。