第4回 メンタルをコントロールする方法
相場の世界で生き残っていくというのは、並大抵のことではありません。
初心者がいきなり成功するというケースは皆無で、含み損を抱えて焦ったりパニックになったり、負けてばかりで熱くなったりイライラしたり…。メンタルのコントロールができずに失敗してしまった経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
今回は、失敗続きの人にぜひ読んでほしいメンタル管理のお話です。
メンタル管理の心構え①|海外投機筋のやり口を知り、パニックにならない
編集部:今回は水上さんにぜひ「メンタル」について聞いてみたいんです。僕自身、さまざまな失敗をしてきていますが、振り返ってみればほとんどがメンタルに起因する失敗だったな…と。実はFXって、メンタルも大切ですよね?

水上:実はそれが、トレーディングにおける最重要項目なんですよ。結局、いろいろな理論とかがあっても、メンタル的にくじけてやられてしまうのがほとんどですからね。相場に追い込まれて焦り、やらなくてもいいことをやり、気が付いたら損だけが残ってしまうというパターンです。
トレーダーはいわゆる「全天候型」というのでしょうか、どんな相場になっても冷静でいられることが大事ですね。
まぁ言ってしまえば簡単なことなんですが、なかなか相場の最前線に出るとうまくいかないというのが実態だと思います。
編集部:そうなんです。やはり自分の保有しているポジションと逆の方向へ相場が動き始めると、焦ってしまう人が多いと思います。どうやったら冷静さを失わずにいられるのでしょうか?

水上:これは相場の話だけではなく世の中全般に言えることですが、人間は「ガードが甘くなっているところ」に突然何かが起きたときに、動揺し狼狽してしまうんです。動揺すると、やってはいけないことをやってしまうんですよ。
トレーディングの世界でいうと、ナンピンをしたり塩漬けにしたりという禁じ手をいろいろやってしまうわけです。そういう「油断している状態」が禍根を残すことになるんです。
ナンピンとは?
保有しているポジションに対して相場が逆に動いた場合、さらにポジションを追加する手法(例えば買いポジションを持っているときに、相場が下がり始めたらさらに買い増すこと)
ナンピンをすると平均取得単価が下がるので一見状況が改善したかのように見えるが、大半の場合は傷口を拡大することになる。
塩漬けとは?
含み損を抱えたポジションの損切りをせず、見ないようにしていつまでも保有し続けること。最悪の場合は強制ロスカットになり大きな損失を被ることになってしまう
ではどうすればいいのかというと、簡単に言ってしまえば「油断しない」ことです。相場に臨む以上、ある一定の緊張感はずっと持たなければいけません。
編集部:初心者は突然相場が大きく動くと、「何が起きたんだ!?」と慌ててしまいがちですね。たしかにそれは油断かもしれません。


水上:海外投機筋はその辺をよく知っていて、みんなが驚くようなことをしてくるんです。一番簡単なのは、速攻ですね。一気に攻め立てて相手をパニックにさせるというのが一番うまくいく場合が多くて、海外投機筋はどこも最初に速攻をかけてきます。
心の準備ができていないとパニックになってしまうけれど、「そういうことが起きるものだ」と心の準備をしておけば動揺しません。
僕はよく「新鮮に驚くな」と言っているのですが、海外投機筋がやってくることは非常にパターン化していて、それに引きずり込まれてパニックになったら終わりです。「ああまた来たね」という感じに、冷静でいなければいけません。
編集部:海外投機筋のやり口については、連載第2回で解説していただいていますね。この機会にあらためて読み返したいと思います。

メンタル管理の心構え②|ときにはペナルティボックスに入る決意を
編集部:初心者によくある失敗としては「負けが続くと熱くなってトレードを繰り返してしまう」というのもあります。これもメンタルに起因するものだと思いますが、どうしたらこういった精神状態になるのを防げるのでしょうか?

水上:そういった場合に大事なことは「休む」ことです。どうもうまくいかないなと思ったら、逃げてしまえばいい。逃げ上手になることがすごく大事なんですね。
トレーダーには常に「今ポジションを持たなかったらどれだけ儲け損なうんだろう」という恐怖感があります。その恐怖感があるばかりに、俗に「ポジポジ病」と言われるように、常にポジションを持っていないと気持ちが休まらないといったことが起きてしまうんですね。チャンスがあると思ってしまって、トレードしていないと落ち着かない状態です。
しかし、儲け損なう恐怖でポジションを持ったにもかかわらず、儲け損なうどころか逆に損をしてしまうことが往々にして起きるわけです。そして損をすると「取り返したい」という気持ちが働いて、雪だるま式に損失が膨らんでいってしまう。この「取り返したい」という気持ちはアリ地獄のようなもので、もがけばもがくほど損が増えていきます。

それをどこかで断ち切るためには、一回相場から離れる必要があります。そうしないと、なかなかその気持ちからは離れられないんですよね。
ですから「逃げ上手になる」ことが大切なんです。
相場が自分の考えていることと違うのなら、我慢してトレードする必要なんてないんですよ。逃げずに我慢をしていると傷口をどんどん広げてしまって、最終的に大きな損失だけが残ることになってしまう。傷が軽いうちに逃げるのが一番です。

編集部:たしかにそうですね…。「今日はトレードをやめよう」ということをネガティブにとらえる必要はなくて「逃げ上手」と思うべきですね。初心者はまず、その意識改革が必要なのかもしれません。
ちなみにプロトレーダーも、トレードがうまくいかなくて相場から離れることはあるのでしょうか?

水上:ありますよ。英語でも「スティック」という言葉があって、これは「固執する」という意味なんです。向こうの人たちも「相場にスティックするなよ」とよく言います。
プロはどんなに相場が荒れても逃げてしまうので、それほどやられないんですよ。うまくいかないときはほとぼりが冷めるまでじっとして、様子がわかってきたらまた始めればいい。そのくらい軽いタッチでいた方がいいんです。
編集部:そういえばプロトレーダーの世界には、相場から離れるために「ペナルティボックス」というものがあるという話を聞いたのですが、これはどういうものなのでしょうか?

水上:「ペナルティボックス」というのはもともとアイスホッケーの試合にあるもので、反則をした選手は、そのボックスに一定時間入らないといけないというルールがあります。

プロトレーダーの世界でも、ある程度の損失を出してしまうと「いったんペナルティボックスに入って頭を冷やしてこい」ということがあるんですね。
まぁ物理的なボックスがあるわけではなく、自分のデスクに座ってトレードをしないというのが実際のところなんですが、どちらにしても「強制的にトレードをさせない状態」にします。
普段は海外投機筋が大暴れする時間帯に「今日は静かだな」と感じることがしばしばあるのですが、そういうときは彼らもペナルティボックス入りしている可能性が高いです。
編集部:プロトレーダーでもそういったことをしているんですね…!だとしたら我々のような初心者トレーダーもぜひやるべきですね。
プロですらそうやって相場から逃げることがあるのですから、初心者が相場にスティックして成功するわけがないですよね…。

メンタル管理の心構え③|相場を忘れることも仕事の一つ
編集部:相場から一時避難する意義についてはわかったのですが、トレードを見送っている間は精神的にキツいものがありそうですね。なんだか悔しくてモヤモヤしそうです。

水上:休んでいる間に何をすればいいのかというと、「相場を忘れる」ということが仕事になります。これは「仕事」です。忘れることが仕事になります。
では仕事として何をやればいいのかというと、一番いいのがスポーツをすることです。スポーツをやって汗をかいてシャワーを浴びて、ビールの一杯でも飲む。そのくらいサッパリした状態になると気分も変わると思います。

あるいは旅に出るのもいいのですね。まぁそれは時間とお金もかかるのでなかなか自由にはいかないと思いますが…。それ以外でいうと、たとえば編み物とか、釣りとか。要するに「他のことに没頭してしまう」ということが大事なんですね。
相場でやられてしまうと、気持ちがウジウジした状態になるんですね。忘れるためには他のことをしないと、ウジウジした気持ちが消えないんです。そのためには、他のことを夢中になってやる必要がある。頭の中を空っぽにするようなことをしないと、いつまでも未練やくやしさが残ってしまって、前向きなことができないんですよ。
例えるなら失恋と同じですね。失恋相手のことをいつまでも引きずっていると前に進めないのと同じです。
編集部:それはわかりやすい例え話ですね(笑)。でもこういう話って、笑い話のように聞こえるかもしれないけれど、実はけっこう重要ですよね。

水上:重要ですよ。トレーダーには「リフレッシュする」ということがものすごく重要なんです。
特にトレーダーなんて普段は画面の数字ばかりを見ているわけですから、旅行に行って自然に触れたり、旅先でおいしいものを食べるだけでもものすごくリフレッシュになります。そういうことも、実はトレーダーの仕事の一部なんです。

「休んでいると後ろめたいな」と思う必要はなくて、逆にそれをしないと煮詰まってしまった気持ちをリセットできません。相場を忘れてリフレッシュすることは、すごく大事なことだと思いますね。
水上さんの経験談は…?
編集部:最後に、水上さん自身の経験談をお聞きしてもいいでしょうか。水上さんは過去に、メンタルに関する失敗を経験したことはあるんでしょうか?

水上:ありますよ。銀行でディーラーをしていた時代のことですが、ある年に私は、歴代1位の成績を上げたことがあるんです。その年は5月から6月にかけてドル円が20円くらい上がり、1億ドル持っていたので20億くらいは儲けて…9月にまた4円くらい上がったので、そこでさらに4億円儲けたんですね。計24億円というのは歴代1位の成績でした。

先輩からは「歴代1位かもしれないが、あまりひけらかすんじゃないぞ」という言葉をいただきましたし、自分もそれは誰にも言わないようにしていたんです。ただ気持ちのうえではどうしても気持ちのゆるみは出てしまっていたようで、9月に入って相場が変化していることに気付かなかったんですね。
それまでに儲けた相場のはトレンド相場で、誰もが儲けられるイージーな相場だったんですけど、それが9月に入ってレンジ相場に入り、小さな値幅で上下動を繰り返す相場に入ってしまったんですね。
しかし自分は今までのトレンド相場が続いていると思って、狭い値幅の中で売ったり買ったりをめちゃくちゃにやってしまったんです。その結果、24億円の利益の中の10億円くらいはやられてしまった。さすがに自信を失って、10月からの2カ月間は自分の意思でペナルティボックスに入ったんですよ。
その間、本当に敗北感がすごくて。その敗北感をどうすればいいのかを考えて、相場について研究することにしました。ペナルティボックスの中で、トレンド相場とレンジ相場についてとことん調べてみたんです。
その結果、相場というのはトレンドとレンジが繰り返し続いており、それぞれにトレードのスタイルを変えないと大損をくらうこともあるということがわかりました。そのあとポジションを取り直し、損失分を取り戻して25億円にしてその年度を終えたということがありました。
編集部:水上さんでもそんな大失敗をしたことがあるんですね…。しかし、最終的に損失をリカバリーできてしまうのもさすがです。

水上:そのときにすごく大事だったのは、休んだことです。休んで研究をしたことが、私にとって気分転換になった。それをやったから取り戻すことができたんです。
この1年を自分では「天国と地獄」と呼んでいるんですが、これを経験できたことは自分のトレーダー人生の成長につながったと思っています。
編集部:大きな失敗というのはできれば経験したくありませんが、もしもそんなことが起こってしまったら、やはり頭をリセットすることが大切ということですね。
メンタル的な成長をするためには時間も経験も必要ですが、今回教えていただいたことを胸に、少しでも効率的に成長していけるように意識して臨みたいと思います。今回もありがとうございました!

今回のまとめ
- 海外投機筋に踊らされない冷静さを身に着けよう
- うまくいかないときは休む
- 相場を忘れてリフレッシュすることもトレーダーの仕事
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。