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世界的に注目度の高いアメリカの重要経済指標
FXで取引する各通貨の価値は、それぞれの発行国の経済・政治情勢の影響を受けており、重大な事件やイベント、経済指標の発表などで通貨の価値が大きく動きます。
FX市場で世界的に注目されているのは、基軸通貨米ドルを発行するアメリカの経済指標です。
各指標は定期的に発表され、重要な指標が事前の予想値と大きくかけ離れた結果だったりすると、市場は一種のお祭り騒ぎになります。
重要経済指標の発表スケジュールを把握し、急なレート変動に備えられるようにしておきましょう。
米国経済指標 | 発表日 | 重要度 |
---|---|---|
ISM製造業景況指数 | 毎月第1営業日 | 高 |
ISM非製造業景況指数 | 毎月第3営業日 | 高 |
米国雇用統計 | 毎月第1金曜日 | 高 |
米国貿易収支 | 毎月上旬 | 中 |
小売売上高 | 毎月第2週 | 高 |
CPI(米国消費者物価指数) | 毎月15日前後 | 高 |
PPI(米国生産者物価指数) | 毎月15日前後 | 中 |
新築住宅販売件数 | 毎月下旬 | 高 |
個人消費支出(PCE) | 毎月下旬 | 高 |
米国GDP | 毎月下旬 | 高 |
米国政策金利 | 年8回 | 高 |
参考:Yahoo!ファイナンス
米国雇用統計
米国雇用統計は、アメリカの雇用状態に関する数々の指標をまとめたもので、景気動向を示すほか、アメリカの金融政策・財政政策にも影響を及ぼす重要経済指標です。
おおむね毎月第1金曜日に、米国労働省から発表されます。
雇用統計の中でも、「非農業部門雇用者数変化(前月比)」と「失業率」は、投資家から特に注目される指標です。
また米国雇用統計の2日前に発表されるADP雇用統計も、先行指標として注目されます。
ISM景況感指数(製造業/非製造業)
ISM景況指数は、全米供給管理協会(ISM)が、製造業・非製造業の各350社の購買担当役員から、前月比の景況感をアンケート調査してまとめたもの。
指数が50を超えると景気拡大、下回ると景気後退を表します。
ISM景況指数は、雇用統計よりも毎月の発表が早いので、先行指標として注目されます。
小売売上高(全体/除自動車)
小売売上高は、米国商務省が発表する、小売業全体および自動車を除いた売上高。
個人消費がGDPの約7割を占めるアメリカでは、小売売上高が景気動向を表す指標のひとつとして重視されます。
個人消費支出(PCE)
個人消費支出(PCE)は、アメリカの個人所得や消費について調査したもの。
小売売上高と同じく商務省によって発表され、GDPの先行指標として注目されます。
さらに、名目PCEを実質PCE(価格変動を加味して算出したPCE)で割ったPCEデフレーターと、そこから価格変動の激しい食品・エネルギー価格を除いたコアPCEデフレーターは、政策金利を決定するFRB(日本でいう日銀)からインフレ指標として注目されるため、FX市場からの関心も高い指標です。
CPI(米国消費者物価指数)
CPI(米国消費者物価指数)は、モノやサービスの物価変動を調査したもので、毎月15日前後に米国労働省によって発表されます。
PCEデフレーターと同じく「物価の変動を表す指数」ではありますが、調査範囲の広いPCEデフレーターの方がFRBからの注目度は高いと言えます。
毎月の発表はCPIの方が早いので、FX市場からは先行指標として注目されています。
米国新築住宅販売件数
新築住宅販売件数は、全米および地域別の新築住宅の販売件数や価格などをまとめたもので、米国商務省が毎月下旬に発表します。
米国の景気動向に対して先行性が高いといわれる指標のひとつであり、建材や家電・家財の需要を誘う波及効果も大きいため、FX市場からも注目されます。
同じく毎月下旬に全米不動産協会(NAR)が発表する「中古住宅販売件数」と比べると、規模は劣るものの先行性(景気に反映される速度)は新築住宅販売件数が1~2ヶ月早いとみられています。
これは中古住宅販売件数が所有権移転で集計されるのに対し、新築住宅販売件数は販売成立した時点で集計されるためです。
米国GDP
米国GDPは、アメリカ全体の生産活動を示す経済指標で、四半期ごとの速報値・改定値・確定値が順に発表されます。
特に注目されるのは、1・4・7・10月に発表される速報値です。
米国GDPは世界全体のGDPに占める割合が大きいため、世界経済を左右する指標として、FXだけでなく世界中の株式市場や金融市場からも注目されます。
米国政策金利
米国政策金利は、年8回、毎回2日間にわたり開かれるアメリカの金融政策決定会合FOMC(連邦公開市場委員会)の終了後に発表される重要経済指標。
利上げ・利下げによって、FRBが現在のアメリカの景気をどう見ているかが判断できるほか、米ドルで資産を保有したときの金利に直接関わるため、投資家からの注目度は非常に高いと言えます。
また政策金利発表後、FRB議長による定例の記者会見も注目されます。
米国貿易収支
米国貿易収支は恒常的な赤字ですが、それでも米国の貿易赤字が縮小すると米国の経済状態が良いということで、「ドル買いの材料」になることがあります。
逆に米国の貿易赤字が拡大する場合は、「ドル売りの材料」となることがあります。
PPI(米国生産者物価指数)
PPI(米国生産者物価指数)は、CPI(消費者物価指数)と並んで労働省が毎月15日前後に発表する指標。
米国の製造業者による販売価格(出荷時点での卸値)が上がっているのか、下がっているのかを表します。
PPIはCPIよりも景気の反映が速いといわれ、先行指標とされています。
その他の重要経済指標
アメリカの経済指標以外では、世界的に取引量の多いユーロ、日本円、英ポンドに関わる指標が重要です。
ユーロ円やポンド円などのクロス円を取引している場合は、特に注意して見ておきましょう。
ユーロ関連の経済指標
ユーロは、米ドルについで取引量が多い通貨です。
ユーロ圏内全体および加盟国ごとの指標があり、中でも経済大国であるドイツの指標に注目が集まりやすくなっています。
- 【重要度大】EU四半期域内総生産(GDP)速報値:1・4・7・10月に発表
- 【重要度大】EU消費者物価指数(HICP):毎月発表(速報値/改定値の月間2回)
- 【重要度大】ZEW景況感指数:ドイツの民間調査会社ZEWが毎月中旬ごろに発表する、ドイツの景況感についてのアンケート調査をまとめて数値化したもの。約350人の金融アナリストに調査が行われ、指数50以上=好景気と解釈できます。ただ、2018年代からは-10~+10へと低迷しています。
- 【重要度中】IFO企業景況感指数:ドイツの公的研究機関IFOが毎月下旬に発表する、ドイツ企業約7000社への景況感アンケート調査をまとめたもの。100を越えると景気に安定感が見えるものの、2019年は95~97と低迷中です。
英ポンド関連の経済指標
英ポンドは、米ドル、ユーロ、日本円についで取引量の多い通貨です。
その激しい値動きから「殺人通貨」などの異名を持ますが、一部の短期トレーダーには好まれています。
近年では英国のEU離脱問題のため、注目度が特に高まっています。
- 【重要度大】BOE政策金利発表:毎月上旬
- 【重要度大】BOEインフレレポート:2・5・8・11月に発表
- 【重要度大】英国GDP:2・5・8・11月に発表
- 【重要度大】英国失業率・失業保険申請件数:毎月1回
日本円関連の経済指標
日本円は、世界情勢が不安定になると円高になる傾向があります(有事の円買い)。
- 【重要度大】四半期国内総生産(GDP)速報値:2・5・8・11月
- 【重要度大】全国消費者物価指数(CPI):毎月1回
- 【重要度中】失業率・有効求人倍率:毎月1回発表
- 【重要度中】マネタリーベース:毎月初旬に発表される、市場への通貨供給量を示す指標です。供給量が増えるほど円安が進み、反対に減ると円高が進みます。
日銀金融政策決定会合・日銀総裁による定例記者会見
日銀金融政策決定会合は、年8回、毎回2日間開催され、終了後に日銀総裁による定例記者会見が行われます。
日本円は低金利が続いていますが、FXでは低金利の通貨を売って、高金利の外貨を買うことで金利差益(スワップポイント)が狙えるため、政策金利は重要です。
通貨や経済に影響を及ぼす事件・イベントとは
重要経済指標以外にも、経済との結びつきが深いイベントや政治的事件には、目を配っておきましょう。
世界的な金融不安や政治的リスクが高まったときに起こるリスクオフ(リスク回避)の円高にも注意が必要です。
米国大統領選挙
4年ごと、11月に開催される大統領選挙は、討論会が始まる前年6月ごろから為替市場に影響し始めます。
各州で予備選挙が始まる選挙年2月から本格的に影響を及ぼし、2大政党からの候補者が決まる7~8月に、それぞれの掲げる政策に反応して米ドルの価値が上下します。
2016年にトランプ大統領が勝利したときには、エコノミストの予想に反して円安が加速するという場面も見られました。
G7・G20サミット
先進主要国によって開催される経済サミットは、国家間のパワーバランスと各国政府方針が読み取れるイベントです。
各国首脳(要人)の発言に投資家が一喜一憂し、為替レートにも反映されます。
2019年に大阪で開催されたG20では、ドル安を狙う米国が為替問題を引き合いに出すのではないかという危惧が強まり、円高が加速しました。
米中貿易戦争
世界一の経済大国であるアメリカ、第二位の中国との間で貿易摩擦が強まり、為替レートもこれに左右されて乱高下を繰り返しています。
緊張感が高まればリスク回避で円高、互いの態度が軟化すれば円安になりやすいので、注意しておきましょう。
要人発言
アメリカ大統領、米連邦準備理事会(FRB)議長、日銀総裁などの発言も、為替レートに影響を与えます。
地政学的リスク
アメリカとイランの軍事的緊張、北朝鮮のミサイル発射、シリアやウクライナの紛争など、各国の政治・経済情勢に重大な影響を及ぼす紛争や内戦を地政学的リスクといいます。
政治不安が高まると為替レートも不安定になるため、注意しておきましょう。
経済指標の発表で実際に相場が動いた例
経済指標の発表で相場が動いた事例を見てみましょう。
2018年8月3日は8月の第1金曜日で、米国雇用統計の発表がありました。
雇用統計の発表は、現地の時間(ニューヨーク時間)で朝8時30分、東京時間では21時30分におこなわれました。
下のチャートでは、米国雇用統計の発表前の値動きを【茶色の円】、発表後の値動きを【緑の円】で示しています。
【茶色の円】は、同日の東京市場のオープン時間、そして、ロンドン市場の午前中の時間帯。8月市場の東京、ロンドン市場は、米国雇用統計の発表を前にして、典型的な小動きに終始したといってよいでしょう。
発表が近づくと緊張感が高まり、111.50-60円水準で神経質な上下動が見られます。
このあと米国雇用統計の発表が行われ、市場予想値との乖離は以下の通りでした。
- 予想値:失業率は3.9%、非農業部門雇用者数は+19.0万人
- 発表値:失業率が3.9%、非農業部門雇用者数が+15.7万人
失業率は予想値と同じで、相場に与える影響はニュートラル(中立)でしたが、非農業部門雇用者数は予想値よりも悪い結果となりました。
この発表に反応したFX市場では「米ドル売り(円買い)」が進みました。
このように、重要経済指標の発表においては、予想値との乖離度合いにより大きな相場変動が見られます。
重要経済指標発表前の準備の仕方
重要経済指標の発表前には、大手金融機関のシンクタンクやエコノミストたちが毎回発表値を予測し、さらに発表前日になると、ロイター通信社、ブルームバーグ社などの大手情報ベンダーが予測の平均値を発表します。
前日のうちに、大手情報ベンダーが発表する予想値を確認しておきましょう。
また重要経済指標発表の前後は、FX市場参加者のさまざまな思惑により、相場は一種の「祭り」状態になります。
そこでレート変動のトレンドに乗って取引を行う人もいますが、高いリスクを伴うのも事実。
リスクを避けるなら、事前に所有しているポジションをすべて決済し、マーケットの乱高下に巻き込まれないようにしましょう。
重要経済指標や経済・為替ニュースの情報収集方法
重要経済指標のスケジュールや概要は、FX会社の経済指標カレンダーや速報などで確認することができます。
また、経済や為替に関するニュースは、ロイター、ブルームバーグ等の外国為替ニュース、銀行の出す外国為替レポートなどで収集できます。
要人のSNSや各国の政治関連のニュースもチェックしておくとよいでしょう。