米大統領選挙の行方
米大統領選の第1回候補者討論会が現地9月29日、オハイオ州クリーブランドで開かれた。共和党候補のトランプ大統領と民主党候補のバイデン前副大統領は、最高裁判事の指名や新型コロナウイルス対応などについて激論を交わした。バイデン氏はトランプ氏に対して「あなたは史上最悪の大統領だ」と主張し、トランプ氏は「あなたに頭が切れるところは何もない」と主張。司会者が討論の調整を懸命に試みたものの、両氏がそれぞれ意見し批判し合うなど、混沌とした雰囲気が漂った。また、新型コロナウイルス危機で有権者の関心が高まった経済分野の論議はかみ合わずじまいだった。
最新の世論調査によると、有権者が重視するテーマは「経済」である。実業家上がりで、経済を得意分野とするトランプ氏が「米史上最高の経済にした」と過去の実績を誇ると、バイデン氏は「コロナ危機を克服して初めて、経済再生と言える」と断じた。しかし両氏とも非難の応酬にとどまり、国民が最も注目する「コロナ後」の展望は示せなかったと言えるだろう。
トランプ氏はバイデン氏に対して「中国に弱腰」「増税で経済を崩壊させる」と仕掛けて対立軸を鮮明にするはずだったが、税金未払い問題を持ち出されて不発に終わった。貿易政策は話題にも上らず、バイデン氏に対中制裁関税を撤廃するかどうか追及する機会を逸した。一方のバイデン氏も、民主党が注力する医療保険制度改革法(オバマケア)や気候変動問題で「現政権は無計画」と批判したものの、自らの政策の説明が精いっぱい。両者とも有権者の投票行動を決定付ける説得力に欠け、CNNは「討論会の敗者は国民」と揶揄した。討論会後のCNNの世論調査では、10人に6人がバイデン氏勝利と回答、トランプ氏は28%程度だった。ただし、2016年のときはクリントン氏が62%、トランプ氏が27%だったにもかかわらず最終的にトランプ氏が選挙で勝利している。今の段階では、大統領選の勝者を決めつけることはできない。
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その後、トランプ大統領は新型コロナウイルスに感染しワシントン郊外の軍医療センターに入った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は4日、トランプ氏が1日の最初の段階で行われた簡易検査で陽性反応が出ていた事実を公表しなかったと報じた。同氏はその後の精密検査で感染を確認し、2日未明のツイッターで明らかにしている。
マスク着用を一時否定するなど新型コロナ感染対策を「軽視」していたトランプ氏の感染が、今後の支持率にどう影響するだろうか。早期退院後にホワイトハウスでマスクを外して写真撮影に臨んだことや、米ツイッターがトランプ氏の投稿に警告ラベルを表示したことなども議論を呼んでいる。
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米大統領選挙の為替市場への影響
トランプ氏の早期退院には、病状の改善に加えて、投票まで1カ月を切った大統領選への危機感が背景にある。トランプ氏は「15日夜にマイアミで開催される討論会を楽しみにしている。素晴らしい討論会になるだろう!」とツイッターに投稿した。米大統領選に関するデータによると、11月3日の大統領選を控え、すでに400万人以上が投票を済ませている。2016年の同時期で比較すると、50倍以上の水準である。フロリダ大学のマクドナルド教授は「今年の大統領選では有権者の65%に相当する約1億5000万人が投票し、1908年以来の投票率となる可能性がある」との見通しを示した。このような状況下において、トランプ氏の焦りは高まっているのだろう。
市場に目を向けてみると、トランプ氏の感染によって株売り・ドル買い、退院で株価上昇・ドル安になっている。6日には、トランプ大統領は追加経済対策の与野党協議を11月3日の大統領選まで停止すると発表。これを受けて株安・ドル高となっている。ドルは安全資産としての位置づけになっており、今後もトランプ政権を取り巻く環境に不透明感が高まれば、ドルが買われる可能性がある。追加経済対策については、大統領選前に経済対策が決定される可能性もある。そうなると、株高・ドル安が進むことになるだろう。今後の注目ポイント
一方、コロナ感染拡大による経済への悪影響を避けるため、すでに米連邦準備制度理事会(FRB)は大胆な政策を打ち出し、一定の効果を上げている。トランプ政権も3兆ドルという過去最大級の財政出動を迅速に行い、景気悪化を防いだ。しかし、パウエルFRB議長は、新型コロナウイルス流行で悪化した景気の回復へ「さらなる財政支援が必要である」とし、政府や議会に追加経済対策を求めている。
米国では、コロナ感染拡大で失業した約2200万人のうち、およそ半分が仕事に復帰した。ただし、雇用と経済活動全般はコロナ感染拡大前の水準を下回ったままで、今後の軌道は依然としてきわめて不確実性が高い。FRBは企業などに対する緊急融資制度を導入したものの、十分ではない。そのためにも、政府や議会による「直接的な財政支援」が必要である。財政出動は経済の下支えには不可欠だが、これが財政悪化につながり、ドルは対主要通貨で大きく減価せざるを得ないだろう。
FRBはインフレ目標の2%を超えた場合でも、しばらくはそれを放置し、インフレが定着するのを待つ方針を示している。しかし、その後に待っているのは、想像を超えるインフレであろう。FRBはインフレが2%に達し、その水準を緩やかに超過するようになるまで、引き締めを行わないとしているが、FRBにインフレを微調整する能力はないだろう。2%まで引き上げることも超過させることもできていない中銀が、インフレ率を調整することはできないと考えるからである。
新型コロナウイルスからの経済回復を優先させるため、結果的に3-5%のインフレが到来する可能性は十分にあると見ている。しかし、インフレ率が上昇しても政治的な圧力から失業率が5-7%程度の状況が続けば、金融の引き締めはできないだろう。そうなるとインフレ上昇が加速し、FRBは利上げのタイミングを逸する中、インフレが想像以上に進むことも十分にあり得る。
以前は、インフレが上限を超えないように、あらかじめ金融引き締めを始めていた。それでも、インフレを思い通りに操るのは至難の業だった。しかし、今回はオーバーシュートを許す水準が2%であり、ブレーキ(=金融引き締め)は遅れるのではないだろうか。結果的に、インフレがますます進むことが考えられる。
「インフレの通貨は売られる」のがセオリーである。米国は他国より多くのマネーを供給しているため、米ドルは弱くなりやすい。コロナ対策で財政出動をせざるを得ず、今後も米国の財政は悪化し続けるだろう。米国はすでに成長力が低下し、潜在成長率は40年前の3.8%から今や2.1%。ドルの本格的な下落はこれから始まる可能性が高いと考えている。
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この記事の執筆者
エモリキャピタルマネジメント株式会社 代表取締役
江守哲
EMORI TETSU
略歴
1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。英国住友商事(現欧州住友商事)に出向し、ロンドンに駐在。Metallgesellschaft Ltd.(ロンドン本社、現JPモルガン)に移籍し、非鉄トレーダーとして活躍。2000年に三井物産フューチャーズに移籍し、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場の分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスに入社。チーフファンドマネージャーに就任し、ヘッジファンド運用を行う。2015年にエモリキャピタルマネジメントを設立。自己資金運用を行う一方、株式・為替・債券・コモディティ市場分析・投資戦略に関するメールマガジンの発行、講演、テレビ・ラジオ出演を行う一方、「EMORI CLUB」を主宰し、個人投資家の会員向けレポートの発行および講義を行っている。 著作に、「ロンドン金属取引所(LME)入門」(1999年総合法令出版)、「米国株は3倍になる」(2017年ビジネス社)など、共著に「コモディティ市場と投資戦略」(2014年勁草書房)。新刊に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。