目次
MT4の約定力の仕組み
まずは、MT4の約定力の仕組みから説明していきます。
そもそも約定力とは?
約定(やくじょう)とは、売買の注文が執行されることです。約定力とは、注文の執行されやすさのことですが、具体的には「表示されているスプレッド通りに注文が通る力」を指します。
自動売買でも裁量トレードでも、注文を実行したときに表示されているスプレッドから、できるだけ離れずに注文が成立しやすいほど「約定力が高い」と表現します。
つまり、約定力が高いほど、スリッページ(表示価格から離れた価格で注文が通ること)が発生しにくくなり、相場の状況や口座によって起きる約定拒否(注文自体がキャンセルされること)も少なくなります。
それでは、なぜ表示されているスプレッド通りに注文が通らないのでしょうか。なぜスリッページや約定拒否が発生するのでしょう。
MT4上での約定力に影響する要素4つ
この記事ではMT4のEA運用を主体に解説していますが、MT4以外の口座や裁量トレードについても基本的には同じ考え方となります。
マーケットの急激な動き
投資家が「ドル円を100円で1万通貨買いたい」と思ったら、その価格で誰かが売っていないと買うことができません。
外国為替市場の流通量は莫大で、通常の相場であれば、その価格付近での売り出しがあることがほとんど。希望通り、あるいはほぼ希望に近い価格で購入することができます。
ですが、経済指標の発表や要人発言の直後だったり、節目と見られていた価格帯を突破することで値動きが急激になると、同じ価格で売買したい人が殺到し、希望通りの価格で買えないケースが出てきます。これが一般的な、スリッページ(=値上がり)や約定拒否(=売り切れ)の発生要因です。
こういった急激な値動きに対して、FX会社側がたくさんの売り出し価格を揃えている(カバー先が多いというような表現をします)と、それだけ選択肢が多く希望通りの価格で売り買いしやすくなります。
また、FX会社のサーバ自体が、外国為替市場に接続するスピードや距離も重要で、こういった要素を総合して「約定力が高い」という表現をします。
マーケットの取引が薄い
日本時間の早朝など、マーケット参加者が少ない場合、希望した価格で売っている人が少なく、表示されている価格よりも悪い条件で売買せざるを得ないことがあります。こういう状態を「マーケットが薄い」と表現します。
日本時間の早朝の時間帯で非常に成績が良いEA(MT4の自動売買プログラム)があっても、実際はスリッページが発生しやすく、バックテストより実運用の結果が悪くなることが多くなるのは、このマーケットの薄さが原因となる典型例です。
同じFX会社内で短期的に大量の注文が集中
すでに述べた通り、外国為替市場のスケールは巨大ですが、ある価格で売買できるポジション量は有限です。ですので、1つのFX会社が処理できる注文の量には、当然ながら上限があります。
MT4のEAは、誰が使っても同じロジックで売買をしますから、数千人が使うEAともなれば、同じ通貨ペアで同じ注文が集中することになります。そのEAの利用者の使用会社に偏りがあれば、その瞬間にそのFX会社が処理できる注文量を超えてしまい、表示されている価格では約定できないことになります。
FX会社が意図的に起こすスリッページ
ここまで述べてきた、表示価格通りに約定されない要因は、マーケットの注文量が原因となるやむを得ないものでした。
私たちがトレードできる国内のFX会社のほとんどは、OTC(相対取引)という仕組みです。これは、投資家がFX会社が提示した価格でポジションを売り買いするもので、FX会社が原価に手数料を乗せて販売する、一般的な小売りと同じ側面を持っています。
こういった面があるからこそ、FX会社が提示しているスプレッドがまずあり、さらにそこからどれくらいスリッページが起きるかという約定力が、トレードをする上で重要なファクターになってくるわけです。
約定率が100%にならない理由
すでに述べた通り、FXの注文は相手がいないと成り立ちません。買いたいときには売ってくれる人が、売りたいときには買ってくれる人が必要です。ですので、マーケットの動きによっては、どうしてもスリッページが発生し、表示されている価格で売買できません。
つまり、スリッページはどこかで必ず起こり、約定率は100%にはならないということです。
ですので、早朝だろうが相場急変時だろうが、いかなるときでもスリッページが発生せず、表示価格通りに約定するのなら、それは逆にFX会社側が顧客サービスとして行っていることになります。
約定力がMT4のEA運用に影響を与える理由
約定力は、自動売買でも、裁量トレードでも変わらずに重要ですが、ここでは特にMT4のEA運用へどういう影響があるのかを解説します。
EAのバックテストの結果より実際の運用の結果が悪くなる
EAを運用する場合、バックテスト(過去の相場に対してそのEAを稼働テストし、どれくらいの成績になるかを確認すること)をするのがセオリー。一定以上の成績のテスト結果だからこそ、実際のお金を入れて運用できると判断します。
バックテストでは、ヒストリカルデータという過去のデータを元に行われます。つまり原則としてスリッページが考慮されないため、実運用でスリッページが発生してしまう場合と比較すると好成績に出てくる場合があります。
同様に、スリッページが発生しない、あるいはしにくいデモトレードよりも、実際の運用の方が悪い成績になる傾向があります。そして、約定力が低いほど、この傾向が顕著になり、テスト結果と実戦結果にギャップが生まれます。
EAのスプレッド耐性が悪化する
EAを評価する項目は多岐に渡りますが、重要なものの1つとしてスプレッド耐性があります。
これは期待利得(トレード1回あたりの利幅)で判断することができます。トレード1回あたりの利幅が小さいほど、それに占めるスプレッドの割合が大きくなります。これを「スプレッド耐性が低い」と表現します。
逆にトレード1回の利幅が大きければ、相対的にスプレッドの割合が下がり、その影響は小さくなります。スプレッド耐性が高い状態です。
例えば、ドル円のスプレッドが1pipだとします。トレード1回の利幅が2pipsのEAなら、その50%がスプレッド。スリッページが発生して不利な価格で売買されれば、利益がなくなる恐れもあります。
逆にトレード1回の利幅が100pipsなら、多少不利な価格で約定してもそのEAの総合成績には大きな影響はありません。
約定力が低く、頻繁に狙った価格よりも悪い価格で売買するようなら、スプレッド耐性に悪影響を与え、バックテストで好成績だったEAもパフォーマンスを発揮できなくなります。
約定力を正しく見極めてEA運用を行う考え方
スプレッドの狭さも大事ですが、約定力はスプレッド通りにどれだけ約定されるかの目安ですから、まずは約定力に注目しましょう。特にEA運用なら、先述のスプレッド耐性に関わってくる部分ですから非常に重要です。
スプレッドについては、全通貨ペアで狭くなくても構いません。自分が運用するEAが対応している通貨ペアのスプレッドが狭ければOKです。ただ、多くのEAがドル円、次いでユーロドルといった有名通貨ペアで動くため、主要通貨ペアのスプレッドで比較すれば問題ないでしょう。
スリッページを見極めるコツ2つ
次に、スリッページを見極めるコツを2つ紹介します。
1.MT4上で確認する
上の画像は、あるMT4口座で稼働しているEAの売買結果です。
- スリッページが発生したかは不明
- スリッページが発生している
- スリッページは発生していない
1をとばして、まずは2をご覧ください。こちらは「決済逆指値」の項目が赤く塗られています。
これはつまり、逆指値で決済された=損切りされた注文ということになります。129.058で買ったポジションを、127.144で損切りするという注文をMT4が出しました。ですが、その右の方を見ると、実際は127.143で決済されています。つまり、決済注文より0.1pips悪い価格にスリッページして決済されています。
3は、「決済指値」が緑に塗られているので、逆に利確時の動きです。131.059で売ったポジションを、MT4は127.159で決済しようとし、実際に127.159で利食いしています。こちらではスリッページは発生していません。
このように、すでに持っているポジションへの決済注文価格と、実際に決済された価格を見ることで、スリッページが発生したかどうかを確認することができます。
ただし、1のようなケースもあります。こちらは決済逆指値と決済指値のどちらも0.0000と価格が入っていませんが、1.12055で決済されています。
これは指値や逆指値ではなく、内部的なロジックに合致したため、決済注文が発動したパターンで、スリッページしたのかどうかはこの画面では分かりません。
また、そもそもこのやり方では、新規エントリー時のスリッページも分かりません。
なお、スリッページは、指値注文より、逆指値注文の方が多く発生します。逆指値注文とは、今より高く買い、安く売るという予約注文で、主に損切りに用いられます。
指値注文でスリッページが発生した場合、それだけトレーダーにとって有利になるため、指値ではスリッページは起きにくいと言えるでしょう。
2.同じEAを使っている人と比較する
同一のEAを同一の設定で運用するなら、売買の結果も同じになるはずです。
ですので、結果に違いがあるなら、それはFX会社間の約定力の違いだったり、このあと解説するVPSの性能差である可能性が高いです。
ただ、個人で同じEAを別の口座で稼働して約定力を比較するのはかなり大変な作業ですので、SNSや有名なブログなどでの情報に頼って比較するのが現実的です。
MT4が使えて約定力が高いと評判のFX会社3選
ここでは約定力の高さを強みとしている、MT4の利用が可能なFX会社を紹介します。
OANDA Japan
世界的なFXブローカー、OANDAグループの日本法人で、取引環境の構築に定評があるOANDA Japan。
- 東京サーバー+Beeks FXによって高速取引が可能
- 最低取引単位は1万通貨から
いくつかの取引コースがありますが、EA運用ができる東京サーバーは、多くの金融機関が集結しているエクイニクス社のTY3サーバ内にあり、これとBeeks FXという投資に特化したVPSを組み合わせることで、高速で取引される環境ができあがります。
すでに解説したように、FXの注文可能量は有限であり、タイミングによっては値上がりや売り切れる可能性があります。OANDAの東京サーバー+Beeks FXによって高速取引が可能になると、値上がりや売り切れの前に注文を通せる可能性が高くなります。
ただし、OANDAの東京サーバーの最低取引単位は1万通貨から(1,000通貨の取引は不可)となっています。
外為ファイネスト
最近では、自動売買についての情報発信をするトレーダー、EA開発者が増えているMT4口座の1つが、外為ファイネストとなります。
- 1,000通貨取引ができる
- 複数のMT4口座を保有できるので複数のEAでポートフォリオを作れる
1,000通貨取引ができ、複数のMT4口座を保有可能。複数のEAを同時に動かして、自動売買のポートフォリオを作ることもできます。
サクソバンク証券
上級者向けFX会社ならサクソバンク証券です。
サクソバンク証券の特徴
- 初回入金額が100万円以上とされている
- 投資家ごとに専用の流動性を確保し、安定したトレードを実現
口座の利用をするために、初回入金として100万円の入金が求められます。
ですが、投資家ごとに専用の流動性を確保するため、米国雇用統計などのスリッページが発生しやすい局面でも、比較的安定したトレードが期待できます。つまり同じFX会社を使っているトレーダー同士の競争がありません。
少額の取引ならコスト的に割高ですが、数百万通貨単位の大口取引ともなると話は別。ほんの少しのスリッページでも何十万円もの損失になりかねません。さらに取引単位が大きくなるほど、同じ価格での決済注文の数が足りなくなるなど、約定力が下がります。
すでに大口の方、あるいはEA運用で成功して大きく資金を増やしたら、こちらの口座での運用も検討してみてください。
VPSを利用してさらに安定した約定力でのEA運用を実現
VPSとはVirtual Private Serverの略。インターネット上で動くWindowsをイメージすると分かりやすいかもしれません。
自分のパソコンではなく、業者が提供しているWeb上で動くため、その中にMT4をインストールすることで、全ての取引がローカルを経由せずインターネット上で完結します。VPSの特徴をいくつか上げておきます。
通信速度が速い
家庭のパソコン、インターネット環境を経由しないため、EA運用における注文が素早く通ります。また、時間帯による回線の遅延といった要素も基本的になく、通信速度が安定しています。
物理的なトラブルがない
例えば何かがパソコンにぶつかって電源が切れるとか、停電でパソコンが止まるとか、ルーターの不調で通信ができないといった、物理的な要因による回線やパソコンの停止がありません。
利用料金がかかる
業者のサーバーを借りて自動売買を行うため、利用料が月額で1,000~3,000円程度かかります。ただし考えようによっては、割高ではないかもしれません。
自動売買は基本的に24時間稼働させ続けますので、家庭でパソコンを動かしっぱなしにすれば電気料金も発生します。また長時間の稼働はパソコンの寿命も縮まるでしょう。数年単位で高性能なPCを買い換えることを考えると、安く済む場合もあるのではないでしょうか。
MT4を使ってもリスクは同じ
MT4で取引をしてもFX取引であることには変わりありません。
リスクも同様でFXには相場の変動や金利差により損失が発生するリスクがあります。
さらに、取引金額が証拠金の額に比べて大きい場合、損失の額が証拠金の額を上回ることがあります。
FXのリスクについての詳細はこちらの記事をご覧ください。
FXがハイリスクと言われるのはなぜ?5つのリスク管理方法を徹底解説
FXはなぜハイリスクと呼ばれているの?どんなリスクがあるんだろう...FXは他の投資と比べてハイリスクハイリターンな投資だといった•••続きを読む
記事のまとめ
- 約定力とは意図通りのレートで注文が決まる割合を指したもの
- 短期間に注文が集中した場合や売買が活発でない時にも注文拒否が発生しにくい
- 約定力が弱いFX会社ではMT4の自動売買でも予期せぬ損失が生じる可能性がある
- 同じ自動売買プログラムを別々のFX会社で運用するとスリッページで約定力がわかる